[事務所TOP] [コラム一覧へ]

ポイント:IT減税、IT投資促進税制、中所企業施策、中小企業インフラ整備、減税の考え方

IT減税の年度内廃止について思う事


IT減税の年度内廃止

 政府・与党は22日、パソコンやファクシミリなどを購入した企業に対する「IT投資促進税制」を、2005年度末で廃止する方針を決めた。いわゆる「IT減税」である。時事コラムでも、偶然だがちょうど一年前の2004年11月22日に「IT投資促進税制について」で概略を記述した。IT投資促進税制に関してはそちらを見ていただくとして、「IT減税」の廃止に関しては、いくつか言いたい事がある。

 いろいろな方と話すと、まず「IT減税」を知らない方が多い。ただ、これは「IT減税」に限った事ではなく、中小企業施策は分かりにくいものが多い。「IT減税」だけの話ではなく、もっと広い視野で官民協力して中小企業施策を中小企業の経営者に伝えていく必要があると感じている。中小企業の経営者は自分の会社の経営を考えていくだけでも大変である。役所や税務署に案内がある、ましてやWebサイトに載っているなんて言っても、そこから情報収集する事はかなり困難である。

 こんな偉そうな事を言っている私も、顧問先への情報提供が不十分だと感じており、申し訳ないと思う。本来、中小企業診断士は経営者への中小企業施策提供の一番手であるはずである。この点でまずは自分が反省しなければいけないと思う。

 また、私が一番許せない事がある。以前私のブログに書いたことだが、IT減税の年度内廃止をお客さんに話して、この機会にIT投資をしませんかと言っているベンダーがあるらしい事だ。もうすでに情報化戦略が出来ていて、それを少しスピードアップする事によって、この特例が使えるならば、その提案はよいと思う。しかし、情報化に関してまだこれから検討を始めるといった企業に対して、「特例の期間がもうすぐだから、今IT投資をすべきです。」といったやり方は、結局は無駄なIT投資になる可能性が高い。IT活用はただ単にハードウェアを導入し、ソフトをインストールすればよいというものではない。

IT減税の廃止の背景

 IT減税(IT投資促進税制)は、パソコンやファクシミリなどを購入した企業に対し、購入価格の10%分を法人税額から控除(上限は法人税額の20%)する措置。03年1月に導入され、05年度の減税規模は約5100億円に達する見込みである。

 「減税規模の大きさの」の他に、「IT減税は役割を終えた」という意見がある。これは、おそらくパソコンやファクシミリなど多くのIT機器に減税の対象を広げたので、「ITのインフラ整備は大体終った」という意味なのであろう。IT減税に変わる新しい減税の方針が、インターネット活用やパソコンの情報セキュリティー(安全)対策を進めた企業に対するものに向かっている事からも容易に想像できる。

 代替措置となる投資減税は、企業の国際競争力向上を目的に経済産業省が検討している。ハッカーなどによる不正アクセスや、社内のパソコンからの情報漏えいなどが続出していることから、企業の情報管理強化を促進する狙いがある。不正アクセスやスパイウエア、情報漏れを防ぐ目的でデータベース管理ソフトなどを購入した場合、購入額の10%程度を法人税から控除する案を中心に検討しているそうだ。

 政府が、中小企業に対してインターネット活用や情報セキュリティーを推進するための新減税なので、それは非常によく理解できる。しかし、だからと言って中小企業のインフラ整備は本当に「大体終った」のだろうか?

 偉そうだが、中小企業の現場に実際にお伺いしている私はそうは思わない。中小企業のITの普及状況などがよく統計情報として出ているが、本当にこんなに普及しているのだろうかと正直思う事が多い。

減税に対しての私の考え方

 本年度で打ち切るよう政府税制調査会が提言する方針のIT減税について、日本経団連の奥田会長は、「日本のIT化はまだまだ遅れている」として期限を延長するよう求めた。また、経済同友会の北城恪太郎代表幹事は同日、「個別の優遇税制より、全体として法人税率を引き下げてほしい」と述べ、打ち切りもやむなしとの考えをにじませた。IT減税の存続をめぐり経済界に温度差が出ているそうである。

 この2つの意見にはどちらも納得できるところがある。ただ、私のような若造もあえて意見を言わせてもらえるならば、法人税率全体の引き下げは、影響度から考えると、それが行なわれるとしてもまだ実施まで時間がかかると思う。

 減税の目的は本来「企業にとって必要な投資意欲を促進し、企業をよい方向に導くもの」であると私は勝手に思っている。ITが弱ければIT投資促進税制、人材育成が必要ならば人材投資促進税制と、企業が自社の戦略、必要性に応じて活用して意味があるのではなかろうか? この考え方が中小企業施策を難しくしているのだと思うが、やはり目的があって、何かを利用するというのが正しい形であると思う。

関連コラム
情報基盤強化税制と中小企業投資促進税制 2006年04月03日記述
IT投資促進税制から情報基盤強化税制へ 2006年02月27日記述
IT減税の年度内廃止について思う事 2005年11月27日記述
人材投資促進税制とは 2005年3月14日記述
IT投資促進税制について 2004年11月22日記述

2005年11月27日 宿澤直正


[事務所TOP] [コラム一覧へ]

Copyright (C) 2005 宿澤経営情報事務所