[事務所TOP] [コラム一覧へ]

ポイント:物語、理論のコミュニケーション、感覚のコミュニケーション、相手に納得してもらう、価値の共有、自分なりの考えの補足

物語のコミュニケーションがもつ意味と効果


理論は万能ではない

 「物語力で人を動かせ(平野日出木著)」を読んでから、私は「相手に納得してもらう」ということにこだわるようになりました。それより前に読んだ「図で考える人は仕事ができる(久恒啓一著)」にも「人に納得してもらう」ということが書いてありました。それぞれ「物語」「図解」という別の道具を使うのですが、「相手に納得してもらう」という、その本質的な狙いと効果は同じであると考えるようなりました。前のコラムで「図解」に関しては書かせていただきました。今回は「物語」で「相手に納得してもらう」ということを考えてみたいと思います。

 コミュニケーションは理論的でなければならないというのが今のビジネスの流れです。ただ「理論的な説明で人を動かす」ということに限界を感じている人も多いと思います。実は私もそうです。私はコンサルタントなので経営的な課題からそれを解決するためのシナリオを「理論的」に説明しなければなりません。しかしコンサルタントは「人を動かす」仕事です。「あるべき論」を語っても、結局その企業で何も変わらなかった、では意味がないと思います。最終的に企業が変わるためには、その企業の人が動かないといけません。コンサルタントをその背中を押すのが仕事です。

 そのためには「理論」だけでは難しいと感じています。人はいろいろな価値観を持っています。いくら理論整然と話しても、価値観が違う人には通じません。通じなければ「相手に納得してもらう」なんてことは不可能です。もちろん「理論」だけでも相手に納得してもらうことは可能です。それはある程度は「価値観が共有できている相手」に対して行なう事ができます。論理的な説明はストレートなため、価値観が共有できている場合は素直に、そして迅速に納得してもらうことが出来ます。

 ただ、世の中には実にいろいろな価値観を持っている人がいます。いろいろな考えを持った人がいるから世の中は面白いと思います。そのために悩んだり、考え込んだりすることも多いですが、それが自分の成長につながっていることを、後になって実感することが出来ます。

 ただ「ヒトの多様性」という部分を考えずに、理論で相手を説得しようとすると、なかなかかみ合わずにコミュニケーション自体がうまくいかないことが多々有ります。お互いの価値観が少しズレている場合は、きちんと理論的に説明しても、納得してもらうことは難しいでしょう。少し逆転の発想をすると、いま多くの企業が抱えている「コミュニケーションが上手くいかない」という問題は「ヒトの多様性、価値観の多様性」という部分にしっかりと目を向けていないことが理由ではないかと思います。

 つまり「理論的な説明」を行なう前に、「お互いの価値観の共有」という段階が必要なのだと思います。「お互いの価値観の共有」するために必要なのが「理論的」ではなく「感覚的」な説明だと思います。日本にはもともと理論万能の伝統はありません。「理論」よりも「感覚」のコミュニケーションを重視してきた文化だと思います。

「理論」の盲点

 では「感覚」のコミュニケーションである「物語」「図解」を考える前に理論的なコミュニケーションの盲点を考えてみます。もちろん「価値の共有がなければ相手に納得してもらえない」というのが最大の課題だと思います。ただ他にもありますので整理したいと思います。

理論には二つのモレがあるといわれています。それは・・・

・・・です。理論といえば「ある目的を実現するために緻密に組み立てられたストーリ」といえると思います。ビジネスには欠かせないですね。ただ「緻密に組み立てられたストーリ」は完全であればあるほど、予測できない事象に対応しにくいということです。組み立てられたストーリどおりに事が進めば、理論は最強です。そして「組み立てられたストーリ」通りに進めることも、ひとつのノウハウかもしれません。ただ、どんなに完全であっても想定外のことは起きるものです。

 話を戻しますが、理論には書き手の「表現上のモレ」、読み手の「吸収上のモレ」があると書きました。緻密に組み立てられたストーリほど複雑になっていきます。そこにはどうしてもストーリを組み立てた側のモレが出てしまうと思います。また、読み手側も緻密なストーリをすべて咀嚼する事は不可能で、どうしても読みモレ、理解モレが出てしまいます。

 「完全であるほど、実は不完全である」といった人がいました。まさしくその通りだと思います。不完全なものは実はモレだらけなのです。しかし最初からモレがあることを前提としていますので、読み手自身が注意して読んでいきます。そしてモレがあっても自分で考え、書き手に確認を取りながら、解決行動をとっていきます。これが実は「不完全を完全にする」プロセスになります。

 そして、理論的な説明には、もうひとつ考えておかなければいけない留意事項があります。それは先に書きましたが「価値の共有」ができている相手に対しては「素直に、そして迅速に納得してもらえる」とうことです。これは一見とても良い事のように思えますがそうではない側面もあります。それは素直に理解できてしまうとうことは、自分であまり考えないということにつながります。

 こう考えると「理論」の盲点が色々見えてきます。ただ、これは「理論だけで」コミュニケーションを行なうとしている場合の盲点であって、「理論と感覚」を両方組み合わせるコミュニケーションこそ理想のコミュニケーションだと思います。

伝えたい事を「物語」にして相手に伝える

 では、本題です。「物語力で人を動かせ」では物語を吸収するプロセスが書いてあります。

 この、プロセスの中で注目すべきは、まず「@共感」です。これは価値の共有に他なりません。人が物語に感動するのは、物語を「自分自身の物語」へ置き換えるからです。「他人の話したい内容」を「自分自身の内容」に置き換えるという事は、相手の物語の中にある「相手の価値観」に触れることになり、自分の物語に置き換えることで「相手の価値観」の一部を自分の価値観に重ね合わせる事になります。これによって「相手に納得してもらう」前提である「価値の共有」が実現する可能性が高くなります。

 そして、「A想起」と「B想像」が論理のモレを補える可能性をもっています。ここで思い出して欲しいのが「図解」です。図解はあえて曖昧な部分を残して相手に考えてもらう道具です。実は「物語」も同じ効果があります。物語の中には「目的を実現するための全ての情報を載せる」ことは不可能です。しかし、不足分に関しては「@共感」である程度「価値の共有」ができているので、それを踏まえた「自分なりの考えの補足」が可能となります。つまり、コミュニケーションのすれ違いを無くすためにも「物語」は使えます。

 全く「図解」と同じような効果を期待できるということですね。「物語」に関してはまだ書きたい事があります。また日を改めて書きたいと思います。

参考
「物語力で人を動かせ(平野日出木著)」

関連コラム
教わる相手の頭を一杯にしないための情報の取捨選択 2014年03月31日記述
チームリーダーのための意欲を引き出す教え方・伝え方(3) 2014年03月17日記述
チームリーダーのための意欲を引き出す教え方・伝え方(2) 2014年03月10日記述
チームリーダーのための意欲を引き出す教え方・伝え方(1) 2014年03月03日記述
時間の有効活用(3)〜生きた時間と死んだ時間 2013年12月24日記述
時間の有効活用(2)〜隙間時間の有効活用 2013年12月02日記述
時間の有効活用(1)〜時間を整理・整頓してみる 2013年11月18日記述
「ちゃんとやりなさい」では動けない〜メンバーへの伝え方・教え方(3) 2013年11月11日記述
「ちゃんとやりなさい」では動けない〜メンバーへの伝え方・教え方(2) 2013年10月28日記述
「ちゃんとやりなさい」では動けない〜メンバーへの伝え方・教え方(1) 2013年10月21日記述
考えと行動を一致させ「悩み」を減らす 2011年05月15日記述
図解コミュニケーションのメリット「考えて、気付く」 2011年05月08日記述
他責ではなく自責で問題を考える 2011年05月01日記述
時間管理とは何をすることか 2008年02月10日記述
情報共有が生み出す好循環で組織を活性化 2007年12月24日記述
モチベーションを高め維持する(後編) 2007年09月10日記述
モチベーションを高め維持する(前編) 2007年09月03日記述
問題発見・解決に有効な能力は 2007年02月19日記述
問題を発見して解決するフレームワーク 2007年01月22日記述
なぜ、メンタルヘルスが必要なのか? 2007年01月08日記述
物語のコミュニケーションがもつ意味と効果 2006年12月11日記述
相手を納得させるコミュニケーション 2006年12月04日記述
コミュニケーションとIT活用で考える情報共有 2006年11月20日記述
図解のポイントとその手順 2006年11月13日記述
コミュニケーションとIT活用で考える情報共有 2006年11月20日記述
コンサル活動と図解コミュニケーション 2006年10月30日記述
コミュニケーションを円滑にするには 2006年9月25日記述
改善行動がしやすい組織へ 2006年7月10日記述
変わっていく組織への意識の持ち方 2006年6月26日記述

関連提供サービス
組織活性化の支援サービス
セミナー「情報共有による組織の活性化」

2006年12月11日 宿澤直正


[事務所TOP] [コラム一覧へ]

Copyright (C) 2006 宿澤経営情報事務所